F1開催の夢を追った虚業家「鶴巻智徳」のもう一つの顔(2)

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平成6年7月、鶴巻は債権者から5億5000万円の融資を受けた。鶴巻を債権者に紹介したのは森重毅という男だった。スポーツ界では賭博や八百長事件が断続的に話題になるが、その胴元の一人として荒稼ぎをしていたのが森重毅だった。森は表向きには「シイタケ菌の販売」を業としていると言っていたが、野球を始め公営競技に属する競馬、競艇、競輪ほかあらゆる競技で賭場が成立すれば、何にでも手を出してノミ行為を行ってきた人間である。
また、森はノミ屋の胴元のほかに闇金融にも手を出していたが、その金利は月に25%ととんでもない暴利だった。しかし、森は「公営の競馬で胴元のJRAは還元率を75%に設定しており、残りの25%が黙っていてもJRAに入る仕組みになっている。競馬のレースはわずか2~3分で終わるが、ワシは1か月だから安いものだ」と周囲には開き直るように言うのが口癖だった。
鶴巻対する融資については、1年後の平成7年7月31日を返済期限とした公正証書が翌月の8月末に作成されたのだが、鶴巻は融資を受けるに当たって「目黒平町の自宅土地を担保にします」と言って権利書ほか一式を持参したが、債権者は「自宅を担保に入れたとなれば、金融機関からの信用を失くすことが目に見えているので、担保に取るのは控えます」と温情を示したので、鶴巻は感動して何度も債権者に礼を述べた。しかも、鶴巻への貸付金は債権者の自己資金ではなく、知人より借り受けたものだったというから、なおさら債権者の厚意が鶴巻には身に滲みたに違いない。しかし、鶴巻は期限が来ても返済する目処が立たないまま金利の支払いさえ遅れる一方だった。
この時、債権者は日本オートポリスが巨額の負債を抱えて倒産し、鶴巻が率いた企業群も瀕死の状況にあった事実を知らされていなかった。それは森が故意に事実を明かさなかったからで、もし債権者が知っていれば、融資に応じなかったほど重大な情報だった。森が債権者に鶴巻を紹介した目的は自身の債権を回収するためだったことを考えれば、これほどあくどいやり方はない。
森のあまりのあくどさを挙げればキリが無いが、闇金融で債権回収が難しくなった時には面識を持った金持ちを誘い込み、投資(出資)や貸付を森の債務者に行わせ、その金を自分の債権回収に充てるという卑劣なやり方を平然と行っていた。事実上の債権の肩代わりだが、もちろん森は「投資金や貸金の保全については自分が責任を持ちます」と言い、鶴巻を債権者に紹介したのだった。債権者が鶴巻に融資をして間もなく、森から別に投資話を持ち込まれ、3億円の投資に応じた。ところが、自分も半分を投資すると言っていた森が、どたん場になって「鶴巻のNo.2の岡田瑞穂が詐欺師だというので、投資は止める」と言い出した。ところが、実際には鶴巻が自己破産していることを承知の上で、債権者を騙して1億5000万円のほかに3億円も出させ、自身の回収に充てていたのだ。こうした類の話が、債権者はほかに数件(森が紹介してきた井山某に3億円、丹羽志郎に9000万円、菅沢利治に約2億円ほか いずれも元金)も発生した。しかし、債権者が森に保全の責任を求めても、森はさまざまに言い訳を繰り返して約束を引き延ばしにしていた。

鶴巻が率いた会社群の中で日本オートポリスは巨額の負債を抱えて破産に追い込まれたが、デルマークラブ(競走馬関係)、リンド産業(シイタケ栽培)などは表向きには倒産を免れ、中核の日本トライトラストもまた倒産はしたが、債務処理ほかの残務整理を名目に業務を継続した。そして、それぞれの会社が保有する資産、例えばデルマークラブはエーピーインディの種付権(1億円超)のほかに目黒平町に土地を保有し、またリンド産業は福島県内に1万坪を超える土地を保有(借地分を含む)していた。鶴巻も個人的に絵画(美術工芸品)を保有していたが、前述の通り金融機関の担保に入っていた関係から、金融機関がクリスティーズや複数のオークション会社に販売を委ねるなどしたものの、実際には販売価格が折り合わずにいた。こうした保有資産は総額で約10億円から11億円と見込まれたが、一方で総額1000億円近い負債を抱えて破産宣告を受けた日本オートポリスの後始末をしつつも、10億円前後の資産がギリギリで差し押さえられなかった背景には、やはり鶴巻の“裏の顔”に遠慮する金融機関やゼネコンなどの配慮があったのかも知れない。そうした中で、債権者が鶴巻の自宅土地をあえて担保に取らなかったという厚意を、鶴巻自身が裏切るような事実が相次いで発覚していった。

絵画を返済原資に充てると申し出た平成9年から翌10年にかけて、鶴巻が東京地裁に自己破産を申し立て、それが受理されて免責を受けたにも拘らず、債権者には事前に相談も無かったばかりか、債権者の下に破産宣告の通知すら届かないような工作をしたことであった。しかも、自己破産申立の手続きを受任した松本憲男弁護士が「鶴巻からは当初は1億5000万円の債務であったが、これを返済できなかったため、5億5000万円の債務を承認する公正証書を作成せざるを得なかったと聞いていた」として、免責債務申立では債権者に対する債務を1億5000万円としたのだった。これは、債権者にとっては寝耳に水だった。関係者によると「松本弁護士は鶴巻が振り出した手形をジャンプする際にも『私が責任を持ってやらせる』と言うほどだったから、仮に鶴巻の言う話が本当であるかどうかを調査するのは顧問弁護士として当然の職務だったはずだ」という。しかし、その形跡は全く無かった。鶴巻及びその側近として昭和43年以来鶴巻に仕えてきた岡田瑞穂、さらには鶴巻の親族らが債権者に働いた裏切り行為は数知れなかった。

平成14年以降体調を崩し入退院を繰り返していた鶴巻の代理で岡田瑞穂が債務返済計画の説明で債権者の所に一人で来るようになった。しかし、岡田が持ち込んできた競走馬の売却や種付権の売却、道子が所有していると言っていた株式の売却、さらには目黒平町や福島県会津に所有していた土地の売却等による債務返済計画について、それらのいずれも、すでに売却済みであったり売却交渉すらなかったことが追々判明していったが、岡田はその場の言い訳を繰り返すだけだった。岡田は返済計画が現に進行していることを裏付けるかのような書類、伝票類を偽造することも平然とやってのけたのである。債権者が岡田の嘘を強く疑い、あるいは書類や伝票類への疑念を岡田に直接質しても、岡田は決して認めなかった。書類や伝票類の偽造は、岡田が嘘を認めずシラを切り通すことで時間稼ぎや引き延ばすのが目的だったとしか思われない。(以下次号)

2023.06.23
     

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